■ダンデライオン■

「政宗様っ!!」
小十郎の声が幸村のいるところまで聞こえてきた。
幸村は声のした方角に目をやった。
遠くに小さな影が見える。
小十郎が何か叫んでいた。
意識がそちらにゆき、急に力が抜けた幸村を見張りの二人が後ろに押し返す。

小十郎の様子が尋常じゃない。

幸村は感じた。
木の上に向かって叫ぶ声が焦りと不安でいっぱいになっている。
やがてその声が更に大きくなる。
「政宗様!」
幸村は菓子折りの箱を見張りの男に手渡すと、小十郎のいるところへと向かって走りだした。
距離は300mくらいあるだろう。
全力で走ろうとするが、草履が脱げそうになり思うように走れない。

急がなければいけない気がする。

もどかしくなった幸村は草履を脱ぎ捨てると、一気に速度を上げた。
あと100m。
小十郎が何か叫んだ。
ちらりと見やると、枝が一本軋み、揺れている。
端のほうに小さな影。
目のいい幸村にはそれが何なのか判別できた。
(猫?)
小十郎がしきりに政宗様と呼んでいる視線の先。
そこには、猫。

と、そのとき。
枝がガクリと下がり、折れたようだった。
小十郎の叫び声が聞こえた。
宙に投げ出される小さな体。

あと少しで地面に落ちる。
小十郎が手を伸ばした。


それと同時に。

幸村が宙を飛んだ。

精一杯手を伸ばす。

………

………



トサッ…、と。

小さな音が、した。


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