■ダンデライオン■

(はぁ〜…)
膝の上で丸まって寝ている政宗を見て、小十郎はため息をついた。
今は伊達の屋敷に戻ってきている。
どうにか理由を説明して皆には理解してもらえたが…。
これからどう接していけばいいのかわからない。
ただの猫なら普通にエサをやり、可愛がってやればいいのだが…。
この猫は政宗なのだ。
綱元は「いつも通りでいいだろう」と落ち着いていたが。

「なんであんなに冷静でいられるのだろう…」

政宗の背中を優しく撫ぜる。
気持ちよさそうに喉を仰け反らせた。

簡単に潰れてしまいそうな、小さな体。
綺麗な純白と薄茶色の毛並み。
大きな漆黒の瞳。

思わず笑みがこぼれた。

膝の上で寝ている主君。
人間だったときには考えられないことだった。
いつも肩肘張って強がって。
甘えるなんてことは一度もなかった。

だけど今は。

自分から体を摺り寄せ、構ってくれと強請ってくる。
膝の上にのったり、着物をよじ登って頬を舐めたり。
少しでも離れていると鳴いて気を引いたりもする。

小十郎は嬉しかった。
主君が猫になってしまったことは頭を抱えることだったけれど。
猫になった事で自分に甘えてくれるということは、嬉しいことだった。

…と。
ピクリと耳が立ち、政宗はゆっくりと目をあけた。
体を起こすと小十郎の膝から下り、縁側へと歩いていく。
そしてヒョイと地面に下りたかと思うと、素早い動きで駆けていった。
「政宗様!?」
小十郎は慌てて立ち上がると、政宗が走っていった方を見やった。
ガサっという音が聞こえ、叢がゆらゆらと揺れている。
側にあった草履を履くと、急いで政宗の後を追った。


一方その頃。

いつも赤い鎧を着ている青年が、伊達屋敷の前に降り立った。
今は簡単な着物姿で、傍から見ればただの一般市民のようだ。
青年は馬を従者に預けると、門に向かって歩き出した。
気品のある顔立ち。
肩まである髪が風に吹かれて揺れている。
手にはお土産なのだろう、綺麗に包まれた菓子折りが持たれていた。

門前で立ち止まると、見張り番の男二人が近づいてきた。
「誰だ貴様は」
「名をなのれ」

青年は男二人を堂々と見据えると、言った。

「真田左衛門佐幸村と申す。伊達藤次郎政宗殿に会いに来た」



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