■□てるてるぼうず□■


春の雨が降りつづける。寒さも幾分やわらぎ、花がぽつぽつと咲きはじめていた。
風もつゆの時期とは違いじめじめしておらず、心地いい。
政宗は窓から外の世界を眺めていた。その隣には成実の姿がある。
二人で窓に張り付くようにして、雨が地面に落ちるのを眺めていた。
「止まんのぅ」
成実がため息まじりに言った。
雨はもう三日も連続で降っている。さすがに遊びたい盛りの子供には少し辛い毎日だった。
「そうだのぅ」
と、政宗もため息まじりに言った。
「早く止んでくれないと木登り勝負ができんではないか」
「まったく。お天道様とは意地悪な奴だのぅ」
客に向かって文句をいうが、そんなことで雨が止むはずもない。屋敷の中を走り回りたいが、一度やってひどく怒られたので二人は中で騒ぐことを自重していた。
暇をもてあましている二人を、片倉小十郎は静かに見つめていた。後ろ姿を見る目は優しい。
「小十郎!」
と急に声が上がり、向こうから政宗と成実が走ってきた。
「どうなされました?」
「布はないか?」
「布…で、ございますか」
一瞬何をするのかもわからずに考えたが、あぁ、と頷くとにっこりと笑った。
「てるてるぼうずを作るのですか?」
「そうだ。もうそれしか頼るものがないのだ」
そう言って見上げてくる二人。早くもってこいと、二人して着物をひっぱる。
「かしこまりました。一寸お待ちくださいね」
小十郎はそういうと、布を探しに奥へと消えていった。
二人はその場に座ると、他愛もない話をして小十郎が来るのを待った。


しばらくして、小十郎が白い布を持って歩いてきた。白い紐も一緒に持ってきている。
「お待たせいたしました。どうぞ」
手渡された布を、二人が受け取る。そして嬉々としててるてるぼうずを作り始めた。
「沢山作るぞ」
「おぅ」
布を裂き、丸め、それを包んで頭を作り、紐で縛る。
次々と小さなてるてるぼうずが出来上がっていく。
「梵天、顔を書くぞ!」
と、筆に墨をつけると成実はぐりぐりと顔を書き始めた。
「ほれ、これがわしじゃ」
「ちょっと格好良すぎじゃないかのぅ」
「そして…」
ちょちょいと顔を書き始める。
「これが梵天じゃ!」
「むっ!わしはこんなに小さくないわ!」
成実は一番小さなてるてるぼうずに政宗の顔を書いていた。それを見て怒る政宗。そんな様子が可愛くて、小十郎は思わず笑った。
「何を笑っておる」
「いえ…別に。お気になさらず」
なおも笑い続ける小十郎を見て、政宗はムッとした。
「どうせわしの器はこの坊主と同じくらいと思って笑っておるのだろう!」
「思っておりませんよ」
「じゃあどうして笑っておる!」
少し困ったような顔をして、小十郎は政宗に近づいた。そして後ろから包むようにして抱きしめた。
「殿をかわいいと思ったからです」
「……!!」
「殿もこのてるてるぼうずの殿も、どちらも可愛かったので、つい」
「…わ、わかったから離れろ!」
じゃれる二人を見ていた成実は、にやりと笑って一番大きなてるてるぼうずに顔を書いた。
「ほれ、これが小十郎じゃ!それでこうして…」
と、二つのてるてるぼうずをくっつけて紐で一つにした。
「どうじゃ、梵天と小十郎はいつでもくっついておるからの。こやつらも一緒じゃ!」
そう言って意味深げに笑う。
「仲良しさんだな」
「なっ…!」
違う!と真っ赤になりながら小十郎から逃げようとする。しかししっかりと抱き込まれているので逃げることができずじたばた暴れるだけになってしまった。
「さて、吊るしてこようかの」
政宗を無視して成実が立ち上がる。作ったてるてるぼうずをかき集めると、一人ですたすたと歩いていってしまった。
「おい成実!わしも行く…!」
叫ぶ政宗の声を聞こえないふりをして成実は歩いて行く。やがてその姿は見えなくなり、雨の音だけが辺りに響いていた。
「…小十郎…」
「何でございますか?」
政宗の体は怒りと恥ずかしさで震えているようだった。顔だけ振り向くと、キッと小十郎を睨みつけた。
「人前でこういうことをするなと言っておっただろう!成実のやつ、いつもからかいにくるのだぞ!」
「構わないじゃないですか」
「お前はよくてもわしは嫌なんじゃ!」
「いいじゃないですか。今しかこういうことできないんですから」
「…別にできるだろう…」
聞こえないくらい小さな声で政宗は言った。
「何か言いました?」
「何でもない!!」
そう言うと前を向いてそのまま黙り込んでしまった。
小十郎はくすりと笑うと政宗の頭を撫ぜた。雨の音が二人を包む。
「雨、早く止むといいですね」
「…あぁ」
遠くの窓から見える雨粒を見つめた。
穏かな時間が流れる。
二人はしばらくの間、そのままの格好で座っていた。

それから数日後、雨はやみ、太陽が眩しく顔をのぞかせた。
その光の下で、二つのてるてるぼうずが仲良く並んで揺れて、笑っていた。



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